口腔機能水Webニュース&コラム 3号
日本口腔機能水学会常任理事・大岡山つかさき歯科院長 塚崎 弘明
機能水の歯科用ユニットへの応用
1.歯科用ユニット水管路の汚染問題
歯科用ユニット水管路の汚染問題については,これまで本学会の学術大会でも度々取り上げられてきました.私自身,各所で歯科用ユニットの水質調査を行い,その結果を見て愕然としました.昨年(2015年8月)の読売新聞でもこの問題が大きく取り上げられました(https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20150827-OYTEW52624/).しかし,歯科医療機関で有効な汚染対策を実施しているところはまだまだ少数であり,水管路内は細菌繁殖の温床となっているのが現状です.
2.水管路への機能水の応用
私が機能水の研究に取り組み始めたのは今から25年程前のことです.当時,三浦電子が開発した「オキシライザー」から生成される「強酸性電解水(アクア酸化水)」の特性を調べたところ,強力な殺菌力と生体に対する高い安全性を併せ持つことがわかりました.その後,強酸性電解水は手洗い・歯周治療・外科治療・歯内治療など歯科臨床の様々な場面で有効に活用されることになりました.歯科用ユニット水管路の殺菌に強酸性電解水を応用することになったのは極めて自然の流れでした.当時,私が勤務していた昭和大学歯科病院でもユニットに強酸性電解水を通水しての使用が開始されました.
3.強酸性電解水を通水することの問題点
当時,ユニットに給水された強酸性電解水はアイケン工業が開発した「アイテック」 より生成されたph2.4・ORP1100mvの性状のものでした.強酸性電解水を通水することにより水管路内を無菌状態に保つことはできましたが,金属部品での錆の発生やチューブの溶解など予想通りユニットにはかなりのダメージを与えることになりました. 残念ながら,強酸性電解水を通水したユニットはその後数年のうちに撤去されることになりました.
4.属腐食のない酸性電解水の登場
その後,多くのメーカーより機能水生成装置が登場しました.その中でいくつかの機能水生成装置は極めて微量の塩分しか含まない酸性電解水を生成することが可能となりました.その結果,従来機に比較して金属の腐食が少なく,ユニット内への通水応用が期待されました.実際,ユニット内に通水した先生方からもユニットへのダメージがほとんどみられないとの声を伺いました.
5.微酸性電解水の歯科治療への応用
私は昨年(2015年)3月で長年勤務した昭和大学を退職し,本年(2016年)5月に歯科医院を開業することになりました.開業に際しては,これまでの機能水の研究成果を活かした歯科医院の運営を目指しました.各種機能水生成装置の中から,その性能とメーカーの信頼性を考え森永乳業が開発した微酸性電解水生成装置「ピュアスターミュークリーンⅡ」を導入することに決定しました.配管はセントラル配管とせず,ユニットを改造してボトル給水としました.診療時は微酸性電解水を通水し,診療終了後はユニットのダメージを軽減するため水道水で管路内をフラッシングして運用しています.微酸性電解水は,うがい用コップ・シリンジ・タービン・マイクロモーター・超音波スケーラーに通水しています.これ以外にも,ユニット・ワゴン・ハンドピース・ピンセットやバー・リーマーなどの小器具類の消毒など日常歯科診療のあらゆる場面で活用しています.また,希望する患者さんにはボトルに入れた微酸性電解水をうがい用にお渡ししています.
6.6か月経過後の状況
現在,開業後約6か月が経過しました.これまでに大きなトラブルはありませんでしたが一部の配水チューブに劣化が認められたため耐酸性のチューブと交換しました.また,タービンヘッドの金属部品に若干の錆の発生や,スチールバーの腐食が認められました.しかし,機能水を導入することのメリットに比べれば極めて微々たる問題です.ユニットに微酸性電解水を通水することにより,ユニット内を無菌状態に保つだけでなく,根管洗浄・支台歯形成・スケーリング・抜歯後の洗浄等にも使用することで治療成績の向上に繋がっている実感があります.また,患者さんからも清潔で安心な歯科医院として認知されつつあります.
7.終わりに
近い将来,ユニットメーカーからも機能水の通水を前提としたユニットが発売されると聞いています.今後,機能水の有用性がより広く認知され多くの先生方に活用されることを願っています.また,その一助となりますよう普及に向けた活動を継続していきたいと考えています.